どういう訳かえらく問い合わせが多いので仮オープンです。
この作品は2001年に大阪市音楽団の委嘱により、書いたものです。
編成は、
Piccolo(1), Flute(1), Oboe(1), Bassoon(1)
Es Cl(1), B Cl(4), Bass Cl(1)
A Sax(1), T Sax(1), B Sax(1)
Trumpet(3), Horn(2), Trombone(2)
Euphonium(1), Tuba(1), St Bass(1)
Percussion(3)
初演では並クラ8、Trpは1番にアシがつきます。
Tubaは2人、Perは楽器の種類が多い(Timpani, 3 temple blocks, Wood block, Snare drum, Tambourine, 2 Suspended cymbals, Wind chime, Gong, Glockenspiel, Triangle, Cymbals, Bass drum, Sleigh bell)ので6人で演奏しますが、上記の人数でならば演奏は可能なはずです。現場の事情を考えて、Oboe, Bassoon, Eb Clarinet, String Bass, が欠ける場合、Bass Clarinet, Baritone Saxophone, のどちらかの楽器が欠ける場合にはそれに対応できるよう、レンタル譜では修正しました。
大阪市音楽団のメンバーによると、難易度は5段階で3〜4と言うところだそうです。中学生にでも演奏できるように音域やパッセージには無理がないように気をつけたつもりですけれども、音楽的にはつまらない物にならないように気をつけました。従って、指揮者には相当高度な音楽的な要求をつけているかもしれません。この辺りはまた市音のメンバーからもコメントを集めて掲載できればと思っています。
小編成ですが、楽器の種類は通常の編成とほぼ変わりありません。(Alto ClarinetとBass Tromboneは省略されていますが)OboeはもちろんBassoonが大活躍する作品です。OboeやBassoonが無くても(他の楽器にCueを書いてあるので)演奏は可能ですが、無くてもたいして変わらないと言うことは決してありません。曲の流れ
文章で説明するのは限界があるのですが、「この曲を書いたときの気持ちや手順は今すぐ書き留めておくべきだ」と、今回の初演でTrumpet 1stを担当する大阪市音楽団の村山さんにもご意見を頂いたので、時間が経たない中に書き留めておくことにしましょう。[に囲まれた数字]は小節数を表しています。最も簡単に言ってしまうと、Andanteの導入部[1-39]とAllegro con brioの部分[40-214]から成り立っています。タコな解説者ならば「ゆっくりとした序奏と、それに続く早い部分からなる極単純な構成」なんて物で済ましてしまうかもしれません。
でも、断じてそんなことは無いのです!では、ちょっと熱くなってきたところで、この作品の流れを詳しくお話ししていきましょう。そのうち譜例も載せられると良いのですが、とりあえず文字だけでごめんなさい。まず、全体を大きく3つにわけておきましょう。
導入部[1-39]
提示部[40-117]
再現部[118-214]
小節数ではばらつきがありますが、演奏時間にすると、導入部が約2分、提示部が約1分30秒、再現部は約3分で、全体の演奏時間は約6分30秒です。導入部[1-39]
導入部、序奏でも構いません。この曲にとって重要な素材が次々に現れてくるので、私的には既に提示部でもあるのですが、40小節以降のテンポの速い部分に対してこちらはゆったりと始まりますから、導入という言い方をして差し支えないでしょう。「たなばた」や「おおみそか」にも導入部がありますが、寸法も大きいしこの2曲に比べるとかなり大きな役割を持っています。
まず、曲の始まりは主人公の登場です。第一主題などとよく言われる物で6小節で構成されています。この6小節のグループを「大楽節」と呼んだりもしますね。この大楽節はさらに二つのグループに分かれていて「動機/モチーフ」と呼びます。第1主題の第1動機、第1主題の第2動機、でも構わないのですがT.I-M.I, T.I-M.IIと表記することにしましょう。一般的に動機とは音楽のフレーズを感じられるもっとも短いグループでいくつかの強拍を含んでいて、これにより拍子が感じられます。一つ一つの音がいくつか集まって「音型」が形成され、その音型がいくつか集まって動機が出来上がります。よく「メロディーが浮かんでくるのですか?」と尋ねられますが、私の場合はこの動機が浮かんでくるわけです。
まずT.I-M.Iは[1-4]まで、TrumpetとTromboneのアンサンブルで現れます。この動機は3つの音型T.I-M.I-F.a, T.I-M.I-F.b, T.I-M.I-F.cから成り立っていると言うことにしておきましょう。T.I-M.IIは[4-7]まで、木管楽器のアンサンブルでT.I-M.Iから受け継がれて現れます。こちらの動機もいくつかの音型から成り立っていますが、T.I-M.Iほど重要な扱いをしていないので、これ以上の解剖は省略します。
さて、[7-11]は一般的に「第1主題の確保」と呼ばれる部分になります。主人公をもう一度登場させて、聴き手の意識に定着させてしまおうというわけです。T.I-M.I, T.I-M.IIがもう一度現れるわけですが、T.I-M.I-F.c辺りからこの曲の基本の調性であるC-durからfis-moll, Des-dur, b-mollと転調をたくさんして、「え?一体どうなるの?」と思って貰えるように私も頑張っています。(笑)
[12-22]までは挿入句またはエピソードと呼んだりする部分です。主人公に対しての脇役が登場するわけです。脇役にも色々なタイプがありますが、この部分で扱われている動機はT.I-M.IIと密接な関係がありますから、主人公が信頼を置くパートナーと言ったところでしょうか?ここで登場する動機は二つでこれをE.I-M.I, E.I-M.IIとしておきましょう。E.I-M.IはT.I-M.IIを構成する音型の一つと密接な関係にあり、(と言うか一緒なんですが:笑)[12-13]ではOboeのソロ、[14-15]ではFluteのソロで扱われ、[16-17]はTuttiでE.I-M.IIを扱い、まず最初の頂点を築きます。その後[18-20]ではClarinetのソロ、[19-22]ではBassoonのソロでE.I-M.Iを扱い、また静寂の中に戻り、場面は次のステージに移ります。ここで、ClarinetとBassoonのソロが同時に演奏されていることに気付いた人がいると思いますが、これは対位法という技を使ってみた結果です。元々私は学生時代「対位法」がどうも苦手でいつも逃げてばかりいたのですが、鈴木英明教授の「微妙な感情の陰影を表現するには不可欠な技術」と言う言葉を頂き、以来なるべく自分の作品に対位法的なプランを盛り込むように心がけています。演奏者にとっても複数のメロディーが立体的に配置されているというのは楽しいことですからね。あと、[16-17]でのクライマックスから[22]で静寂に戻る間のバスラインは(Cis-Fis-H-E-A)となっており、やや話が専門的になりますが、完全5度の下降を繰り返しています。これを「5度の滝」と言うらしく、緊張から解放へと向かう効果を持っている、と言うことを大学1年生の「楽曲分析」の授業で田島亘教授に教えて貰いました。その時は「ふーん」と聞き流していたのですが、10年以上も経って自分の作品で実践してしまうとは夢にも思いませんでした。(笑)
[23-30]ではHornによってT.I-M.Iが2回繰り返されます。もう既に4回目の登場です。一体全部で何回出て来るつもりなのでしょうね。(笑)さすがは主人公です。でも、毎回同じように登場していたのでは、聴く人に飽きられてしまいますから、演奏する楽器を変える、ハーモニーを変える、背景を変える等々、様々な工夫を凝らします。このような工夫を「変奏する」と言ったりしますね。ここでは、D-durのドミナントペダル(属音:D-durの場合はAの音:を低音の楽器が伸ばしている状態)上に前回とは違うハーモニーでT.I-M.Iを扱い、さらには木管楽器でオブリガート(装飾的な対旋律)を装備すると言う念の入れようです。これだけやれば新鮮に聞こえるでしょう。(笑)
[30-35]は第2の挿入句です。TrumpetとHornが演奏するファンファーレ風の動機により成り立っています。E.IIとしておきましょう。ここでの調性はB-durですが、そろそろ登場人物も揃ってきて物語をいよいよ本格的に動かしはじめたくなってきたところ。C-durへ向けての転調プロジェクト開始、そして曲のスピードを少しずつ速くしていきます。
[34-35]での転調プロジェクトの結果[36]でA-durのサブドミナント(ここではH-D-Fis-Aの音で構成される和音のことです)に飛び込むことが出来ました。ここからC-durのドミナント(主和音に進むための強烈なパワーを持つ和音:属和音)ベートーヴェンの時代から使われている必殺技「三度転調」で接続することが出来ます。さあ、[36-39]まではこのサブドミナントが中低音の金管楽器で持続される中、滑走路を離陸に向けて加速する飛行機のようにClarinetとSaxophoneが3連符のパッセージでさらにテンポを速めます!さて、今回はこんなところで。一体いつ最後までたどり着くのでしょう?(笑)