この作品は、私が大学3回生の夏休みに書いたものです。分かり易く言うと、夏休みの宿題ですね。(^-^;)「たなばた」に続いて2作目の吹奏楽のための作品であるとともに、2作目の出版されている作品となりました。
それでは「たなばた」に倣ってこの曲を書いたときの思い出を少しばかり・・・
私は大阪音楽大学の作曲学科というところで勉強をしていたのですが、選択科目で副科吹奏楽という授業がありました。自分の専攻以外の楽器で参加するのが鉄則ですが、トロンボーン専攻でユーホニウムで参加(この二つの楽器は発音原理と音域がほぼ同じ)という、ちょっとずるいのでは?と思うような学生も中にはいたりと、まあとにかくとても楽しい人気の高い科目でありました。
私も3回生のとき、高校時代に吹いていたフルートでこの授業を選択しました。この授業を選択している学生の多くはやはり私と同じように中学や高校のブラスバンドで楽器を吹いていた、という声楽、ピアノ、弦楽器、そしてわれらが作曲学科の面々で、中にはかなりの吹奏楽名門校出身の学生もいたりして、副科吹奏楽と言えども私がいた高校の吹奏楽部よりかははるかに上手いバンドでした。(しかも各楽器には専門の助手が入るという音楽大学ならではの豪華さでした。)
指導、指揮はオーボエの橋本徹雄先生でした。大変人柄の良い方で、この授業の人気が高かったのは橋本先生が指導をされていた、ということが一番の理由だったかも知れません。その橋本先生から夏休み前に「12月の演奏会のために曲を書いてくれないか?」と頼まれてすっかり調子に乗って書いてしまったのがこの曲です。夏休みも残すところ後わずかと言うときになって慌てて一気に仕上げた記憶が有ります。(2週間くらいで作ったかな・・・)
さて、夏休みも終わり、秋になって授業が再開されました。いよいよ「おおみそか」の音出しです。
譜面に書いたものが音になる瞬間。
それは作曲家にとって最もわくわくする瞬間です。特にこれほど大勢(40人くらい)で演奏するときはなおさらです。自分もフルートを構えながらその瞬間を待っていたのですが、突然、
「酒井君、振ってみない?」
といきなり指揮者に任命されてしまいました。
はっきりいって私は指揮はもう救いようが無いくらい下手なのです。とにかくまぬけに手を三角形に動かすだけの指揮?で、初音出しは決行されました、のですがあまりよくありません。やはり皆、迷指揮者の登場に戸惑ってしまったみたいでした。少し落ち込んで自分の席に戻り、指揮者も先生にバトンタッチして練習再開です。
「中間部からやってみましょう」
先生の手が柔らかく4拍子を振り始めます。
するとどうでしょう。私が指揮をしたときとは聞こえてくる音がまるで違うのです。オーボエ、クラリネット、フルート、サックスと次々とソロが受け継がれてくるところでは自分が書いた曲だということを忘れてうっとりしてしまいました。やっぱり指揮者って大切だなあということがこの時ほど実感できたことは有りませんでした。 さて、その後は練習も順調に進み、12月。演奏会の本番となりました。
短期間で仕上げた曲とはいえ、やはり書いているときはその楽器を吹くであろう友人のことを思い浮かべながら書いたのです。夏の終わりに徹夜をしながら五線紙の前で思い描いていたことが次々に現実となって目の前で起きていくのはとても楽しく、また感動的でもありました。ピアノ科の女の子が弾くテンプルブロックはとてチャーミングで、作曲科の後輩の吹くホルンはなかなかかっこいいではないですか。私もこの時は高校時代に戻ってフルートを吹くことを目いっぱい楽しみました。
中間部が近づいてテンポが緩んできます。鐘の音が静かに鳴り出して、遠くから「もういくつねると〜」のメロディーが聞こえてくると、そうです。最初に練習した中間部に入ります。そしてオーボエのソロ・・・
このソロを吹いていたのは声楽科で私より学年が一つ下の女の子でした。このソロは指が動きにくいところがあるらしく、練習のときはなかなか上手に吹けなくて彼女はいつも申し訳なさそうにしていました。本番のときもソロが近づいて緊張しているのが私にも本当に良く伝わってきました。
でも、本番ではちゃんと吹けたのです。吹き終わった後は本当にとても嬉しそうな顔をしていたのが印象的でした。勿論、オーボエ専攻の学生のように安定した音、と言うわけには行きませんでした。でも、歌を勉強している彼女の素直な歌心というものが感じられて、私まで嬉しくなってしまったのを今でも覚えています。
それにしてもそのオーボエに続いて出てくるフルートのソロは何だったのだろう(^_^;)音はかすれるは、音程は狂うは・・・(このソロを吹いたのは何を隠そうこの私)とは言えこれもいい思い出です。
こんなハプニングも副科ならではの醍醐味なのですから・・・?
「おおみそか」を演奏してくださる皆様へところでこの作品の譜面ですがいくらで発売されるのでしょうか?
1998年3月現在で¥20500で発売されているとのことです。
高いでしょうか?
でも、この楽譜はそれぞれの楽器を演奏する人達のためのパート譜も全てセットになっています。もし40人で演奏するならば一人あたり¥500とちょっとです。
なぜこんな話をするのかと言えば、去年「たなばた」を演奏してくれた団体の数が、売れた楽譜の数に比べてとても多いのです。あまり考えたくないのですがコピーが多く出回っているのではないかと、とても不安になります。コピーの譜面が多く出回ってしまうと出版社は新しい作品を出版できなくなってしまいます。事実コピー譜が多く出回ったために絶版に追い込まれてしまった作品は数多くありますし、倒産してしまった出版社だって有ります。
出版社だけでなく、私のような作曲家のところにも印税が入ってこなくなってしまうので生活がとても苦しくなります。作曲家だって人間です。ご飯を食べなければ生きていけないのです。作曲をしてもお金が全く入ってこないのであれば生活のために他の仕事に頼らざるを得なくなってしまいます。そういう事情で曲を書かなくなってしまった作曲家も大勢いるのです。
楽譜は一度買ってしまえば大切な財産になります。
「おおみそか」も一人¥500分の価値はあると思います。
どうか皆さん。
私の楽譜を買ってくれませんか?
尚、「CDは出ていないのか!」と言うお問い合わせが大変多かったのですが、1997年12月、ドイツにてJan van der Roost氏の指揮のもと、ドイツのバンド(The Baden-Wurttemberg Wind Orchestra)によってレコーディングされたCDが1998年3月に発売されました。
CDのタイトルは"Ross Roy"[DHR198.002]
楽譜を出版しているDe Haske社からリリースされています。
高橋徹先生の編曲されたシューベルトの「ロザムンデ序曲」やJan van der Roost氏の新作"Et In Terra Pax"も収録されています。皆さん是非買って下さいね。(^-^)